中国のデジタライゼーション体験視察

デジタル化の「未来の体験」

ビービットの仕事を端的に言うと、「1人ひとりを見て、より良い体験を生み出し続けるビジネス」の実現を支援することと表現できると思います。

現時点では「1人ひとりを見る」ためのツールとして、行動観察ユーザグラムを主に活用しています。では、「より良い体験」とはどういうもので、それはどのように構成され、世界でそれを実現している場所はあるのか?

 

ビービットは2016年に米国のサンフランシスコにbeBit UCD Venturesを設立し、未来のUCD(User Centered Design、ユーザ中心設計)テクノロジーを研究する起点としています。

一方、上海でのビジネス展開の中で、中国のデジタライゼーション(デジタル化)やデジタル体験のめざましい発展を目の当たりにしました。

 

もちろん、アメリカと中国、日本はそれぞれに社会構造や課題が異なり、「より良い体験」の在り方は異なります。しかし、未来の可能性に触れることは、ビービットが変化し続け、より大きな貢献をしていくためには不可欠だと思っています。

上海オフィスに赴任している日本人メンバーからの提案もあり、このたび月に1回、日本オフィスのメンバーが中国のデジタライゼーションを実際に体験するために訪問する企画が立ち上がりました。

 

デジタル技術で社会を再構成する

実際に上海での体験視察に参加したメンバーが感じた、もっとも大きな印象は、

中国は国を挙げて、デジタルという技術を用いて社会のあらゆるプロセスを変革し、社会それ自体を再構成しようとしている

つまり、様々な社会課題をデジタライゼーション(デジタル技術によるプロセス変革)によって解決し続けることで、社会のデジタル・トランスフォーメーション(デジタル技術の上に成立する新たなシステム・文化への転換)を行っているというものだったと言います。

 

例えば、中国ではATMでお金を引き出しても偽札が出てくることがあるそうです。また、紙幣はあまり清潔でなく、触りたくないと感じる人たちも多い。そこで、デジタル技術によって、物質的なお金を無くしてしまおうという発想が生まれます。それはAlipay(アリペイ)やWechatペイメントによって実現しており、上海における現金の使用率は5%を切ったとも言われています。

また、中国では「信用」というものがあまり可視化されてこなかったため、クレジットカードも普及していません。これは上海オフィスメンバーの言葉ですが、「(そもそも人口が多いため)悪いことをする人間もやはりいる」。そこで、アリババグループ(阿里巴巴集団)が中心になり、デジタル・リアルの属性・行動データから信用指数(ジーマクレジット、芝麻信用)を計算し、それによって受けられるサービスや購入できるものが決まるという仕組みを構築しています。


現金が不要、かつ、常に購買履歴が記録されているため、無人決済も圧倒的に普及しやすい。

 

信用指数はまさにSFのようで、例えば、不動産の貸し借りや購入でも、結婚相談所でも、近しい信頼指数の人たち同士でしか取引できないシステムが構築されています。つまり、中国では信用指数によってデジタル時代の階層構造が形成され、(目には見えませんが)それぞれの境界の中で閉じた生活をすることが可能になっています。

これは良い・悪いではなく、社会課題に対して、この新たなシステムの方が合理性を持っているので、結果として多くの人に受け入れられていると、上海オフィスメンバーが教えてくれました。つまり、うっかり騙されるより、あらゆる行動を追跡されたとしても信用指数で守られている方が、体験としての品質が高いわけです。

 

社会システムと同様、様々なサービスについても(デジタル技術を用いて)課題を解決し、より良い体験を提供することで市場に受け入れられるという捉え方ができます。より良い体験を生み出し続けるサービスとして存続する条件について、視察に参加したメンバーは次の2点を感じたそうです。

  • とにかく体験の品質が優れている
  • システムの持続可能性を高める設計がされている

どちらも当たり前のように聞こえますが、とても大切な概念です。ここでは、シェアサイクルの例を見てみたいと思います。

 

現在、上海における主要なシェアサイクルサービスは2つ(「モバイク(Mobike)」と「オフォ(Ofo)」)ですが、以前は10以上のサービスが乱立していたそうです。しかし、登録のスムーズさや乗り捨ての自由度など、とにかく使いやすく便利であることを追求した2つのサービス(体験)が現在も残って、より良い体験を生み出す競争を続けています。(参考:デジタライゼーションと体験中心ビジネスシステム

どんなに便利でも、自転車の故障修理や乗り捨てられた自転車の回収など、サービス(体験)を存続させる仕組みがなくては成立しません。そこでモバイクはAIを用いた位置情報の把握、オフォはユーザが自発的に故障の申し出を行ってくれる仕組みを導入して、システムとしての持続可能性を高めています。


街中のいたる場所に自転車が配置されています。


QRコードをかざすと利用登録が完了。初回登録も1分程度でできます。

 

もちろん、これらの背景には政治・法制度や企業活動に関する規制、それによって可能になる寡占市場、すでに進行しているデジタライゼーション(特に決済領域のインフラ)、信用指数による悪意のある行為の防止、大量の若年・低所得労働者の存在などがあります。

フーマー(盒馬)というアリババ系のスーパーマーケットは、「オンラインスーパー(EC)の倉庫とスーパーマーケットの店舗を共有する」というコンセプトで、倉庫の出荷係である水色のトレーナーを着た若者たちが、買物客に混じって店内で出荷作業を行っています。近距離であれば注文した商品を30分以内に届けてくれるという、とても便利なサービスです。


水色のトレーナーを来ているのは出荷係の方たち。注文を受けた商品を絶えず店内で集めています。

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店内の一角にはベルトコンベアが配置され、注文を受けた商品を配達係に連携しています。

 

いずれにせよ、中国にはデジタル化がもたらす新しい社会の形の1つがあると感じます。その様子が上海オフィスメンバーから共有されることもありますが、実際に現地に行って体験することで得たものは非常に大きかったと、参加メンバーは口を揃えます。

広く外に目を向けて学ぶことはとても大切です。中国での体験は日本や世界におけるデジタル化を考える上で、貴重なインプットになるように思います。

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